「今ここ」に注意を向ける方法、「マインドフルネス」の考え方を改めて夏から2か月ほど学んでいる。日々起こる事象に対して、私たちの心は、「価値判断」や「評価」「分析」を常にしている。それが悪いとか良いのではなく、心とはそういうものなのだが、日々子育て、人育てをしているとつい、自分の思いや価値に縛られて、狭い視野にとらわれたり没頭して離れられなくなることがある。意識的に子どもたちの現状、「今」に気が付くことが大切だと考えて「マインドフルラーニング」を立ち上げた。
子どもの教育方法においても同じことが言える。私たち大人が学んできた方法はたまたま、私たちに合っていただけであって、お隣さんや、自分の子どもにとってはひょっとしたら違う方法のほうがあっているのかもしれない。そういう思いで、わたしは3人の子どもを0歳の時から1:できるだけ多くの大人の価値観に触れてもらうこと 2:頭だけでなく、体全体を使って学ぶこと 3:様々な教育法を試してみること、の3つを柱に育ててきた。多種多様なバックグラウンドを持つお子さんや保護者の方1000人余りと20年ほどでお会いし、お話をして来た結果、個別に強みを見つけてそれを伸ばす学習方法がどうやら子どもにとっては「幸せな自立をした大人」になるための必要要件の一つだという確信を持った。個別に強みを見つける方法とは具体的にどうすればよいだろうか?
わたしが一番にお勧めするのはまず、学習スタイル診断を受けて親自らの学び方と子どもの学び方の違いを明確に把握することだ。その次に、いろいろな教育の選択肢を知ること。そしてどの方法が自分の子どもに合っているのか、見極めていくこと。そこで今回は教育の選択肢の一つである、オランダの「イエナプラン」について紹介する。こんな教育を子どもが幼いころから受けていたらどんな人間としての基盤ができるだろうか。注意してほしいのは、ただどの教育も妄信せずに客観的に自分の子どもにやってみたいな、とか合っているな、と感じたことをご家庭で取り入れることが大切なことは変わりない。
人口1700万人のオランダでは憲法で教育の自由が保障されている。1917年から教育の自由化が始まり、100年あまり。その中で、オランダの公立私立を含めた「初等教育(4歳から12歳まで)」の6000校のうちわずか3%だが「イエナプラン」の学校がある。中々校数が増えないのはイエナプランのグループリーダー(教師)を務める大人の力量が問われるので、あくまでも推測だが人材育成が追い付いていないのが一因ではないだろうか。因みにオランダのオルタナティブ教育で一番多いのがモンテッソーリ、その次にイエナプランだと言われている。
オランダの初等教育は、他の欧米諸国や日本のように「授業形式」が主流だが、親は子どもの特性を見極めてシュタイナー、モンテソーリやフレネなど多様な教育の選択肢の中から選ぶことができる。親や先生から見て、子どもから見てその学び方が合わなかったら次の日から紙一枚で転校をすることが日常的に行われている。常に子どもが入ってきたり出たりがあるため誰も転校転入を気にしない。「ただこの学び方が合わなかっただけなのね。」というスタンスなのだ。これにはオランダの文化的背景や国民の価値観が一致しているからであるからと言える。「幸福な一市民として社会の一員として子どもたちを成長させる」という共通の認識が軸として根付いているためだ。この子のために何があるか、、を常に考える文化なのだが、ここまで来るのに100年かかっている。
イエナプランで根幹とされているPBL(プロジェクト型の学習)、「ワールドオリエンテーション」だけを取り入れている公立の学校があったりするようだ。このHPのコラムにもつづった話題の映画、「Most Likely to Succeed」でもPBLがスポットライトを浴びているが、イエナプランのハートと言われている学びである。そしてPBLはアメリカにも広がっている。
オランダの憲法で謳われている自由化の3つの理念をまずはご紹介しよう。一つ目は「ビジョンの自由」。そして2つ目が「設立の自由」。200名以上集まったら学校が設立できる。そして最後が「方法の自由」である。どんな教育方法でも12歳の卒業までに国の学力テストに合格できれば問題がない。オランダの義務教育は4歳誕生日の次の日から。その子の誕生月に合わせて義務教育が始まるため一斉入学式がない。
フレネ教育とイエナプラン:イエナプランが生まれたのは1920年代と言われている。もとはと言えばドイツが発祥。この教育法を気に入った教育者がオランダに持ち帰り、オランダで育った教育方法だ。フレネ教育がベースと言われている。(フレネ教育とは、フランス人の教育学者フレネが作った教育法。子どもを起点とし、主体とした学習方法を提案し、個別学習計画などをいち早く取り入れたと言われている)イエナプランの3つの大きな柱を紹介しよう。
1:サークル対話 朝の会、終わりの会、サークルになってみんなで対話をするが一日に最低2回ある。読書サークル、演劇サークル、などのいろいろなテーマがある。お互いの顔を見て相手を尊重する。本を読んだという発表に対して子どもたちは「どうしてどの本を選んだの?」「どの点が面白かった?」「どんな気付きが合ったか?」と穏やかに話し合うことができる。グループリーダー(先生)はディスカッションに入らずに見守る。話しが脱線したときだけファシリテーター的なかかわりをする。最後の振り返りに「こういうところが良かったわね」というフィードバックをする。4歳からこのサークル対話を経験しているため、人の話をきちんと聞ける人間に育つ。自分の話をきちんと聞いてもらえる安心感があるのだ。サークル対話の時間のためのスペースが教室内に常設されているため、すぐにサークルタイムとして集まることができるなど教室の配置に工夫がある。
イエナプランの柱2つ目:個別学習。自分のペースで学習計画を立てて取得していく。それが5-6人のグループでテーブルが5-6名のための個別学習をするための異年齢がテーブルにするように設定されている。午前中は集中がしやすいので教科型の個別学習に充てられていることが多い。
柱の3つ目は異年齢学級だ。4-12歳集まっている学校でクラスは3歳区切りで学級が構成されている。4,5,6歳が一つの学年、6-9歳、10-12と3歳区切りで学年が分かれている。一人の子どもが3年間同じクラスにいる。ヨーロッパのドイツのマイスター徒弟制度のように一つの学年の一番若い年齢は年少=お弟子さん、年中は熟練者、年長は師匠で全部の活動を統括する。次の学年に行くときはまたその学年の年少から。年少、年中、年長と毎年違う役割を経験できることを意識して作られている。社会に出ると、いろいろな年齢の人と関わって協同するため社会に出てからの練習を兼ねている。
イエナプラン4つの基本活動
1:サークル対話(詳細は↑の記事で)
2:「仕事」これは学習の時間のこと。個別学習が前提で子どもたちが主体的に責任をもって行う。グループリーダーが1週間の課題を決める。この算数はこの範囲だと提示する。そして子どもたちはそれを聞いて月曜日のこの時間にはここをやろう、この科目にとりかかろう、と自分で決めさせる。それは自立学習に結びつく。スペリングが弱いから多めに取ろう、すぐ計算は理解できたからもっと先へ、、など、苦手得意の配分ができる点も魅力的だ。一人でやる学習は午前の頭がさえているとき。午後はお昼の眠くなるので、グループ共同の時間、「ワールドオリエンテーション(PBL)」や探求プロジェクト学習にする。自分で決めたことなので言われずに取り掛かることができる。実際に日本でイエナプランを取り入れながらホームスクールをしている親御さんがお子さんに日曜日に「来週は何するのかな?」と計画を立てておくと「今日は何をしよう?」と毎日考える時間を省け、スムーズに学習を始められるそうだ。
3:遊び 主に日本では休み時間にあたる時間である。イエナプランでは遊びも学びにつなげるので教室内に遊びの場がいろいろと設けられている。例えばアルファベットや知育玩具、数字、に触れられるように工夫されている。学校はグループリーダーも保護者も出入り自由、なので遊びにかかわることもある。オランダはワークシェアリングが確立しているため平日3-4日だけ働けばいいという柔軟性から親も子どもの学校にも好きに自由出入りできて「学校にお任せ」というスタンスが少ない。発表は金曜の最後の時間。発表タイムは各クラス設けられている。早めに迎えに来て保護者が見に行く。
4:viering(催し)英語ではCelebrationと訳され、何かをお祝いするイベントや年間行事のこと。週の終わりのミニ発表会はもちろんのこと、クラスメンバーのお誕生会。季節宗教的なイベントなどから学ぶのだ。催しに向けてどんな発表をしようかとPBL探求学習を行う。教科学習をして終わりではなくて、生きた世界にもつながることになる。ただしイエナプランではオランダ語と数学が教科型の学習とされている。それでも統一されたテキスト使用せずに先生が用意したり、タブレットでゲーム感覚でスペリングや計算を覚える。理科や社会、歴史音楽は、アート図工、ワールドオリエンテーションで力を獲得。発表するために作文を書いたり、国語の力を使う、総合的な力をつける。
5:催しとワールドオリエンテーション(PBL):催しの発表のための調べ学習では探求や問いを持ち合って、その中で教科学習の力を獲得して発表する。「ワールドオリエンテーション」はイエナプランの心臓と位置付けられている。PBLの目的は教科内容も大事とした上で世界に向けて学んでいくもので自分と世界をつなげていくことが目的になっている。4歳は歌を歌う、劇をするなどから始める。教科の枠組を超えてすべてに関わってくる。ワールドオリエンテーションでは理科や作文、外国語、海外に由来すること、外国語も歴史や地理も必要になる。PCでそれらをまとめてスキルも自然と身につくのだ。ワールドオリエンテーションのステップは7つあると言われている。
ステップ1:テーマの設定 テーマはカテゴリーとして7つの経験領域を目指すとされている。「環境と地形」、「地理と自然科学」、「めぐる一年季節の変化」、「技術」、「物を作る機械や道具を作る」、と「コミュニケーション」、「外国語=他の国の文化と共に生きる」、だ。社会に属して社会に生きるためには、わたしの人生=身の回りで起きていることにどう考えるか、作ること、使うこと、労働側になったり、消費したり、、、と物事をいろいろな角度から見れるようにとテーマを設定することが大事だと言われている。ここがグループリーダーである教師の力量が問われるポイントだ。子どもたち深い学びのためのテーマで会ってPCで簡単に調べて終わらないように工夫を凝らす。4年生くらいの子どもたちには例えば「春」とか「石」、「たまご」、「氷」などのテーマが与えられマインドマップにして「問い」をする。卵の実物持ってきてアヒル、ウズラ、鶏の卵、に触れてみたり、動物を学ぶ際には先生がわざわざ毛皮のコートを着てみたり、本物の鶏を連れてくるといった生きた学びにつなげていく。
ステップ2:学ぶための問いかけ。テーマについての問い。何だろうと子どもたちから引き出していく。答えや正解に向かうのではなくて、子どもたち自ら問いを投げかけ対話をしていく。「これは何の卵?」「殻の赤いの白いのがあるけどなんでだろう?」問いを興味関心に沿って立てていく。学校や大人から与えられた探求ではないこと。自らが不思議に思うことを「問い」にできることが最大のポイントだ。
ステップ3:計画。問いを集め、似たテーマの子どもたちをグループ化したりして目標設定をする。どのように学びを進めるか計画する。
ステップ4:経験・発見・探求 例えばイエナプランをホームスクールに実験取り入れているご家庭では「氷」というテーマではオレンジジュース、アイスコーヒー、塩、砂糖の氷を使って解ける速さを実験したいなどと実験的なこともする子もいる。正解に向かって動いているんじゃないという安心感があるのでどんどんと興味関心が広がっていく。自分の知りたいことに対して探求していく。それをまとめてプレゼンできるように持っていく。
ステップ5:サークル対話の時間に発表する。「催し」で発表したりミニ発表会だったり。一週間単位のものもあれば、大がかりなプロジェクトになることもある。年間で大きなプロジェクトはは8回やることになっている。つまり8年間の初等教育の間に64個テーマ発表をすることにする。当然プレゼン能力が高い大人になる。繰り返すが保護者は自由に発表会に参加して視聴することができる。
ステップ6:記録保管。イエナプランをホームスクールに取り入れているご家庭では問いを沢山出し、探求をして、結果を回収できたのかという振り返りの時間にしているようだ。学校ではグループリーダーが記録を取る。反省点が次の年の学びにつながる。このテーマは広がった、広がらなかったというテーマ設定はグループリーダーの仕事になる。
ステップ7:テーマ 次の段階に進むにはどうしたらいいか。問いを理解して満足できたか、次にするときにはどうしたいか。次につなげるような作業をグループリーダーは子どもたちと一緒にやる。オランダ人は自転車移動が好き。(ヤンセンの自転車がその象徴)象徴的なものとして自転車。ある方向に前進していく、学んでいくというシンボルだ。これらの学習は、例えば地図の読み方、スペリング、ものの測り方などPBLと教科型を行ったり来たりするので、子どもたちはやらされているとかテストのために覚えるのではないのでモチベーション高く取り組むことができる。教科でさえもそれを社会生活において使える場がワールドオリエンテーションとしてあることを大切にしている。このステップは例えば1週目でステップ1,2を、2週目でステップ3,4番で、3週目で5番など時間をかけて行なったりする、などのがあるようだ。最初の問いから始めの一週間は何をしていてもこのプロジェクトが結びついていく。「氷」がテーマだったらテレビを見ていても外を歩いていても、子どもたちは「氷」と結び付けて考えるため、情報をキャッチするアンテナの感度が上がっていくとイエナプランを実践しているご家庭では感じている。
イエナプランの評価方法:ポートフォリオと評価だが、冒頭にも書いたように評価方法は、12年間終わった時に学力国が決めている基準をクリアしていればOKという大前提がある。あくまでもその子ども一人の人間として成長していることが大切で誰かとの比較ではない。どれだけできるようになっているかをメインで評価している。日本の通知表のようなもので言うと6つのカテゴリーがあり、数字の1,2,3の評価ではなくて手書きで書いて文章で評価を表す。悪いことは書かないことが評価をするときのルール。できること、できたことを書く。そして生徒の成長を一般化ではなくてできるようになったという個別の成長について記述する。1:社会性や情動性の発達、2:ワールドオリエンテーション、3:表現力、4:運動能力、5:言語力読解力、6:計算力、空間認識能力の6つの評価がある。一番最後の評価が日本で一番重要視されそうな読み書き計算であることもポイントだ。
ポートフォリオ:子どもたちは通知表の他に自分のポートフォリオを持って帰る。主体性を大切にするので子どもがポートフォリオをはさむものを選ぶ。小さい子は文章が書けないからグループリーダーがインタビューをする。「どうしてあなたはこの作品を選んだんですか?」「次はどうしたい?」「この中で頑張ったことはなあに?」と聞き取ったものをポートフォリオにファイルしておく。大きくなったら自分で書き一緒に挟み込んでいく。教室に置いてあるのでいつでも自分で見られるようにしている。進度を自分で可視化できることは主体性を育む一助になっている。ポートフォリオの中で自分は算数で頑張ったことを入れようか、などと自分で気づいたり考えるきっかけとなるので親や先生に言われなくてもポートフォリオは随時更新される。成績に関する懇談会(3者面談)の案内も一緒にはさんで持って帰る。その招待状には3つ記入する項目がある。一つは子どもが3者面談で話したいこと、2つ目は保護者が話したいこと3つ目はグループリーダー話したいこと、、それは事前に書いてある。懇談会面談では子どもとグループリーダーが話すのを親が見ている。心配していること、聞きたいことなどもできるがいつでも学校の出入りが自由でコミュニケーションが取れる状態なので風通しがよい。不満を持つ親御さんも当然いるが、とことん話しあうというのがイエナプランのポリシーだ。「対話」の起点が子どもの為なので、着地点がぶれることが少ない。
日本での試み:イエナプランの学習をオンラインで行うことができる(イエナラボ)。また長野県の佐久穂市は町を挙げて対話会をしていてイエナプラン学校の設立へ動いている。ホームスクール(自宅学習)は個別学習が強みではあるが、それと同時に社会に出ると協働作業という観点を学んでおくのも必要だ。イエナプランは、子どもが自ら自分で選ぶという作業を4歳から繰り返すことにより自立した主体的な人間の育成を国が行っている。日本ではよほど自己主張ややりたいことがある子どもではないと、この「選ぶ」作業を行うことが年齢と共に減ってくるように感じる。そしてそういう子ほど「扱いづらい」と親も先生も思ってしまう風潮があるのが残念だ。
最後はイエナプラン校の次の進路について言及しよう。12歳で初等教育を卒業する3パターンから進路を選ぶことができる。一つは大学を目指すコースで一斉授業型、大学受験を目指すタイプの学校に進学をする。もうひとつは高専。勉強もするが、より実践的。もう一つが職業訓練コースだ。技術職を建築など将来を既に決めている場合の選択肢である。あとで変更が可能なのも柔軟性の高い教育法だと言える。何がしたいか12歳で既に見つかっていること、最終的なゴールがあり、ああなりたいこうなりたいと夢があることは素晴らしい教育の成果だと言える。
日本にいるからといって嘆くことはない。親がしっかりと子どもの良さを見極めて、週末や夏休みなどのちょっとした時間に「探求」させたり「選ばせたり」すればいいことだ。日本にもたくましく育つ子どもたちが大勢いる。彼らがのびのびと安心して学びに向かえる「環境を整えること」が私たち大人ができる最大の贈り物ではないだろうか。
参考文献/ご協力:
イエナプラン教育のためのポイントガイド 日本イエナプラン教育協会
21世紀型教育を考える会 にいがた