アメリカの中でも最も教育が進んでいる州と言われているミネソタ州のチャータースクール*で数学を中高生に教えていた細川さんをお招きして講座を開催しました。細川さんは5年ほど勤めたチャータースクールを退職して次の学校に新学期から就任される予定です。ミネソタ州の特別支援システムについて目から鱗が落ちるような制度や法律を学びました。まずは日本の「発達障害」と米国の発達障害の定義の違いです。日本ではASD、LD、ADHDを総称して発達障害と呼びますが、米国ではもっと広義なものでした。

「知的、身体的、またはその両方の障害を持つ、より広いカテゴリーの生涯にわたる障害でのことで「発達障害」とは、知的障害、身体障害、またはその両方を含む、しばしば生涯にわたる障害の幅広いカテゴリーのこと。
発達障害の例としては、自閉症、行動障害
行動障害、脳障害、脳性麻痺
脳性麻痺、ダウン症、胎児性アルコール症候群、知的障がいなどがあります。」講座より

ミネソタ州では、IEP(個別指導計画)は法律で定められているので特別支援を受ける際にはまずはIEPが必要になります。IEPは、親のサイン無しには作れませんし、親の同意なくそれに基づいて子どもを支援することも禁止されています。

どの程度の子どもがIEPを持っているかというと、偏差値ベルカーブの下の2%に当たる子どもが対象になっているとのことでした。つまりそれほど多くはないということです。個別指導計画を作るプロセスは興味深いものがありました。例えば、学びに困難を抱えている子どもが教室にいたらすぐに特別支援にというわけではなく、通常級の先生が個別対応をしてまずは解決してみます。読みづらい文章問題にはマーカーを付けてみる、Ipadを使って板書をさせてみる、などの対応で通常級で学べる場合はIEPの対象になりません。通常級と特別支援の間に504チームプロセスという段階があって、特別支援の先生と、通常級の先生が、チームを組んで個別対応をまずはしてみるそうです。免許更新の際の講習・研修の中にカテゴリーがあり、合理的配慮もカテゴリーになっていますので、普通教員であっても合理的配慮は「義務」です。

オンラインハイスクールを運営していたころから日本では学校か、不登校か、というような登校に関して、選択肢が極端で少ないと感じていたのですが、学校の中での対応も通常級か特別支援か、の極端な選択肢しか現在は存在していない、あとは先生の力量に任されていることが分かりました。つまり日本では的確な一つ二つの支援があればなんとかなるような少しだけ学びに特徴がある子どもたちは、合理的配慮が徹底されていないために取り残されているということです。

アメリカのすべての公立校にはOT(作業療法士)、スクールカウンセラー、ST(言語聴覚士)が配備されていて、チームとなって子どもを支援しているということでした。そもそも、子どもたちには学ぶ権利があるという考えがベースになっているアメリカと、そうではない日本の社会の違いを感じる時間でした。

また子どもが何らかしらの困難さを抱えていると親が気が付いた時の「grieving Process=悲しみのサイクルの段階」について学びました。初段階では我が子の学びの凹凸を知った「ショック、否定」から始まり、次の段階では「怒り」が沸き→「落ち込み、離脱」→「対話と試行錯誤」ののちに、「受容」できるようになる、というプロセスでした。ただこれは順調にこの段階を進むのではなく、後戻りしたり、行ったり来たり、また親だけでなく特別支援教師でさえ当事者の場合は頭でわかっていてもこのサイクルを行ったり来たりする心理的な傾向があるというお話でした。

その後細川さんの教室での実践のお話ののち質疑応答となりました。途中でアメリカ人の同僚教師がZOOMに飛び込み参加してくださって、最前線のお話を伺うことができました。
次回はアメリカの冬休みに講座を開講予定です。
ご参加者のご感想より

・個別支援教育の違いを知ること、感じることができてよかったです。
トランジションプログラムについて更に詳しく知りたいです。その子が社会に出ていく際を想定して、どのようなことを実施しているかとても興味があります。
・子どもの「好み」が実際に機能しているのかをよく観察していきたい。
親の悲しみの段階については考えたことがないのであとでじっくり見直して、親御さんへのかかわり方について考えたいです。
・自分自身の既有の知識とは全く異なる、新たな視野を多く得ることができました。また、日本と外国の特別支援に対するそれぞれの見解や思い入れのギャップの大きさを目の当たりにし、改めて自分の中で今の日本の発達障害に対する意識の低さを自覚し改善していかねばならないと再認識することができました。
・通常学級には現在少なくない割合で特別支援を必要としている児童生徒たちが在籍しています。幅広い特性をそれぞれ持った子どもたちが一つの同じ空間の中で授業を受けていることの危険性に焦点を当て、子ども一人一人に対して教師ができる最低限の支援方法とは何かを自分で模索していけたらいいなと思います。そのうえで、本日受講した様々な知識をあらゆる場面で活かせたらいいなと思っています。
・システムを丁寧に説明してもらえてありがたかったです。こんなに丁寧な説明はどこにもなくて大学の講義を聞いているようで内容的に値段以上だと思いました。ただ、他の方からすると実際にどのような教材を使っているとか教室の様子とかをもっと知りたかったのかなと思いました。でも日本の特別支援教育はアメリカの枠を持ってきているので中身はどうなのかを知ることができて本当に良かったです。

*講座が終わってから「録画視聴できますか?」というお問い合わせを頂いています。銀行振り込みで対応しておりますので、この講座の録画視聴をご希望の方はマインドフルラーニングの「お問い合わせ」からお申し込みください。

*チャータースクールとは 従来の公立学校では改善が期待できない,低学力をはじめとする様々な子どもの教育問題に取組むため,親や教員,地域団体などが,州や学区の認可(チャーター)を受けて設ける初等中等学校で公費によって運営されています。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/gijiroku/020802j.htm
文科省参考資料より