あなたはもう「Most Likely To Succeed(最も成功の可能性が高い教育法)」を観ましたか?小4の娘が一夜にして不登校になって、いい大学に行くためだけの「学校の在り方」に父親が疑問を持ち始める、、という導入で映画が始まります。この映画のテーマは「人工知能 (AI) やロボットが生活に浸透していく21世紀の子ども達にとって必要な教育とはどのようなものか?」であり、「学校は創造性を殺しているのか?」TEDトークで著名なケン・ロビンソン氏、カーンアカデミーのサルマン・カーン氏、ハーバード・イノベーション・ラボ所属の、トニー・ワグナー氏などの有識者や多くの学校取材を2年間積み重ねられ制作されたドキュメンタリー作品です。
早稲田大学の高等学研究所が主催で司会からすべてが英語で行われていました。2015年に米国でこの映画が公開されてから現在は35か国、7000人が視聴していて教育現場では静かにこの映画が広がっています。米国カリフォルニア州のサンディエゴにある High Tech High というチャータースクールに通う高校1年生のプロジェクトのみの学習方法を追いかける映画です。教科を教えない、テストがない、宿題が出ない、という「自由」な学校の試みで彼らに与えられた唯一のことは「一年間かけて歴史を学ぶためにどんなプロジェクトを行うか」ということです。演劇で歴史を学んだ成果を表すグループもあれば巨大なアートの作品として表現するグループもあります。
この学校は「チャータースクール」といって州や学区が認めた自由な形の学校で公費で運営されています。入学は人種や所得に関係なく、出願した生徒を抽選で選びますので半数が低所得者層です。学校では数学や科学などの州統一テストに必要な教科型の授業は行われないので保護者は「基礎学力が付くのか」「希望する大学に入ることができるのか」という当然な心配を抱えています。教えたい情熱のある教師は一年ごとの契約でこの学校にやってきます。9年生を担当する先生は二人だけ。プロジェクトチームをいかに自主的に考えさせ、設計させ、失敗をさせ、そこから学ばせるかという指導に徹底しています。定期テストをしない代わりに一年の学年の最後に「成果発表会」が行われ演劇のパフォーマンスや作品を展示して、学校の管理人さんまでを含む来場者全員がその「作品」の評価に携わるとのことです。
従来の教育は急速に発展する工業化社会に対応するための人材を輩出するために120年前に始まりました。工業化教育の目標は工場で働く人材育成でした。それは、1:座ってレクチャーを聴ける人 2:繰り返す作業を覚えること 3:皆が同じ質の教育を受けていること、つまり今の学校の原点となっているものです。それが120年以上もの間変わってきていないことに問題があります。これからの時代はAIなどと一緒に働く、情報化社会に対応することができる教育を施していかねばなりません。情報を取捨選択して自らが判断できる大人になるには若いうちに失敗や判断することを経験させていないと社会に出てはできないという考えです。情報化社会では知識はインターネットで無料で調べることができるのでもう暗記の学習の時代ではありません。実際にアメリカにはAPクラスといって大学レベルのクラスを高校で単位取得をすることを素晴らしいと考える傾向があるのですが、例えば520年以上のアメリカの歴史を年間32週の授業で学ぼうとすると先生はレクチャー式を取るしかありません。暗記で覚えてよい点数を取った知識も3か月後にはその記憶が0に近く、その勉強の意味はないと映画では説明されていました。それよりも自らが考え、責任をもって行動し、選択肢して学んだ体験は大人になってからもその「ソフトスキル」は生かされることでしょう。
一昔前までは大学の学位さえあればよい職業につけて中流階級の生活ができていましたが、現状では53%の米国大学卒業生が失業している状態だというデータがありました。今の子どもたちの65%が全く考えてもいない新しい仕事につくといわれています。そんな情報化社会に生き抜く子どもたちに求められている「ソフトスキル」は4つあります。
1:創造性の高い仕事をしてフィードバックを受け止める力があること
2:共感力があること
3:そして批判的思考ができること
4:プロジェクトをチームで遂行するコミュニケーション力を持つこと
です。このような教育をしていてもカリフォルニア州の統一テストの平均点より10%も高いスコアをこの学校の生徒たちは出しています。基礎学力は学習が嫌いにならなければ本人が気が付いた時から学べるもの。それよりも学校に来ることがワクワクしたり学びたくて仕方ない環境を用意することが大事だということです。
まだアメリカでもこのHigh Tech Highが何とかやっている試みであり、実験段階ではあります。今の教育システムは違う見方をすると「数字で評価する」というわかりやすい指標があるからどの国のどのシステムにも通用してきています。このHigh Tech Highの方法でどう生徒のソフトスキルをどう数値化するか、数値化しないのであればどう評価できるか。この試みを世界中で広げるだけの明確なサポートやシステムはあるのか。人材育成はどうするのか、本当にすべての社会に導入したいのならばこの映画を無料でYoutubeに挙げて広めればいいが、そうではないところに民主主義的な難しさもあるのかと思います。子どもは「今」を生きていて、待ったなしです。今いる場所でそのような「環境」が用意できていなければ家庭が意識をして子どもに合った環境をどんどんと選択していくことが必然の流れのようです。
最後にこの映画のエグゼクティブプロデューサー、テッド・ ディンタースミス氏が来日していて、飛行場から会場に直行し来場者と質疑応答をしていました。
☆2018年7月25日水曜日 渋谷で無料上映会を開催します。詳しくはこちらまで
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