【発達障害シンポジウム 思春期の支援について】

「発達障害思春期からのライフスキル」の著者でもあり医師の平岩幹男氏による講演会。大きな会場に200名以上の参加者がいて発達障害の思春期支援の関心の高さをうかがわせた。一般的にも思春期は発達課題がない子どもでもホルモンのバランスが不安定になり、何かと家庭で問題視されることが多い。発達課題を持つ子どもにはどんなスキルが必要で、大人たちはどんな支援をしていけばよいだろうか。講演会から内容を抜粋して紹介する。

言葉の遅れや行動から幼児期には発達に課題があると指摘されやすい。学童期になると「多動」や「字を書くのが苦手」ということで困難さが表面化する。成人期には就労や家族を作るということが必要になってくる。それでは思春期の発達支援には何が必要だろうか。

「ヘルスリテラシー」という言葉がある。例えば将来一人で暮らしても「偏食をすれば病気になる」とか「不眠が続くと体調を崩す」といった自分に必要な知識が備わっていて、行動ができること。自分自身の健康は自分が自己決定できるように、社会資源は医療、保健、教育、福祉の観点からサポートをしている。凸凹は誰しもが大なり小なり持っている。「症状=障害」にすぐに結び付けないことが大事である。一般的には凸凹に生きづらさが加わると「障害」とみなされる。

発達障害は発達の過程で明らかになる行動やコミュニケーションの障害。根本治療はないが適切な対応により社会生活上の困難は軽減される。聞く、話す、行動する、がどのようにうまくいかないか、現在の生きづらさだけでなく、将来の生きづらさを予測してトレーニングをしていく必要がある。

診断の必要性は、ケースバイケース。言葉の遅れがあるという素因はあっても小学校低学年ではうまくやっていて「発達障害」というレッテルを張る必要がない子どもがいた。中学年になって学校でパニックを起こすようになって初めて診断された。社会的困難があるかどうかが診断の基準になる。また支援を受けるためには障がい者手帳などの申請をすることになる。

自閉症スペクトラム障害(ASD)はこれまで男性が多いといわれてきたが実は女性には診断が付きづらい内容のテストであるという論文がある。うつやパニックで受診をして根底にASDが判明することもある。コミュニケーション障害と言われていても言語面ではなくて非言語面の遅れも多いといわれている。

ASDはコミュニケーションがうまくいかない代わりに、正直でまじめ、率直で自分なりの正義感などの長所がある。周りを見て判断をしないという正義感なので、他人をいきなり注意してしまって逆に暴力を振るわれて被害を受けるということも数多くある。向いていない職業は、活動性が高い職業。例えば訪問販売などの営業マンや店員、窓口業務、銀行員などである。一方でASDの得意な過集中が発揮できる職業には向いている。技術者、音楽家、芸術家、棋士、SEやPCインストラクター、研究者、教師、やっていい悪いがはっきりしている警察官、自衛官、介護、動物関連の職業だ。

発達障害の一つのADHDは不注意、衝動性、多動性などの症状により社会生活が困難になる。ただし児童虐待でも似たような症状になりうるといわれているのでその場合は半年くらい環境を変えて観察をして、それらの症状が落ち着くかどうか見極める。ADHDは、幼いころから「じっとしなさい」と叱られ続けているので自己肯定感が低くなっていることが多い。7-8歳までに発達外来に受診すればサポートの方法を周りも学ぶのだが、10歳以降で受診する子どもたちの場合は心がズタズタになっていることが多い。

ADHDは動き回ったり気分を変えることが得意で、じっくりと取り組むことが苦手。適していると思われる職業はセールス、営業担当、電話勧誘、マスコミ関係、窓口業務、案内係など。逆に向いていない職業は技術設計関係、教師、警察官、音楽家、プログラマーなど。過活動自体は疲れなければ通常の生活が送れるので定期的に調子が悪くなったら受診をしてもらう。

学習障害は発達障害の一つなのだが実はよく見落とされている障害である。「字が読めない」という状況ですぐにディスレクシア(読字障害)と結び付けてはいけない。文章理解ができない「知的な問題」なのか(その場合は音声教材を使う)、視覚過敏で字が読めないのか、周りがうるさかったり、嫌いなクラスにいるときだけ字が読めなくなるのかという「状況の問題」か。興味のあるポケモンには集中できるけれど国語になると読めなくなるという「集中の問題」か。字や数字が「難しい読みの問題」であれば初めてディスレクシアと認識されるべきだ。

ディスレクシアは知的を伴わない障害なので、本当は知識はあるがテストの問題文が読めないがために点数が取れない場合がある。音をまとまりとして読んでみたり、単語読みから文章読みにしてみたり、読みやすいメイリオフォントを使ってあげるとか、無料ソフトのDaisyやAccess Readingで教科書を音読してもらうなどの対応が可能。今年度中に任天堂Switchで本や教科書を音声読み上げをするソフトを開発予定。

発達性強調運動障害(OCD)とは座り続けていると姿勢が崩れてしまったり、書くことはできるが徐々に字が乱れてきたり、ジャンプができてもスキップや縄跳びが苦手という特徴がある。これは根性がないからとかしつけのせいではなく子どもの体幹が育っていないからだ。体幹を鍛えるために、一日5分「かかし」のポーズをさせたり、うつぶせになって両手両足を床から上げる「飛行機」などをやらせる。ウォーキングは年齢×kmを心掛け、走るときには手を大きく振るようにすると体幹が鍛えられる。トレーニング器具や補助装置を使用して座位が安定する。

感覚過敏は五感における過敏さのことだが、熱いのに気が付かなくてやけどするという感覚鈍麻も見られる。過敏さは「こだわり」の一部なので、急がずに鳴らす、切り替えることが基本でどうしても無理なら開き直って回避もお勧め。

睡眠障害もよく見られる症状の一つだ。寝つきや途中で目が覚める覚醒、早期覚醒などがあるが、うん時間の睡眠を確保というよりは「すっきりと起きられるかどうか」がカギとなる。身体を軽く動かす、午後3時以降にお昼寝はしない、などを心掛けるとよい。

生活の問題解決法の一つに後述の「セルフクールダウン」の練習をすることがある。またメモを取って記録に残す。人を疑えない正直な傾向があることからパスワードや暗証番号は絶対に教えない、と教育する。身だしなみも気を遣わない場合も多いので社会生活においては見た目が大切なことは伝える。

現在の日本では性を教えることは「寝た子を起こす」とされていて国際的な「寝た子はきちんと起こす」と乖離がある。学習指導要領では「中絶」とか「避妊」という単語が使えないため、刑法の「強制わいせつ罪とは」などの防衛のための法律が教えられない。教育が行き届かずに年間2~300人の中学生が中絶をしているという。

まずは女性の性問題についてから。一年に10㎝の身長が伸びる「スパート期」に入るころ初潮を迎えるので月経について教育をしておく。具体的には使用済みナプキンは必ずビニール袋に入れて捨てる、月経ポーチには捨てるためのビニールも一緒に入れて持ち歩かせる、などの習慣をつけておくこと。また言葉をそのままうのみにする傾向から騙されやすく性的被害にあいやすい。「これまで見たこともないくらいあなたはきれいだ」と言われたら信じてしまう傾向があるので誘われた時の手順を教えておく。親に電話をするとか、一度家に帰って確認するなど、ややこしい状況を作っておけば誘った男性は面倒くさくなり、性的トラブルを回避できる。スマホを持たせるときは約束を徹底させる。写真を送ってほしいといわれても送っちゃいけない、などなど。

男性の性の問題については男性は陰毛が生えてもお母さんにべたべたするケースが多いが一緒に入浴をしなくなったら性教育を始める。異性や同性への距離の取り方を具体的に手を伸ばしてこのくらい、、と教えたりするなど。性教育をしていないと、思い込みからストーカーになってしまったり、2次障害を起こすと性暴力を起こしてしまうことになる。

金銭管理は自活のために必須のスキルだ。小学校のころからお小遣い帳で記録をつける習慣を。計画を持って使ったり、貯金をする習慣をつける。クレジットカードの概念を教えることも大切。すぐに信じてしまう傾向があるので「努力しないで儲かる話はない」と常日頃から伝える。自分がいくらの貯金があるかなど他人に話さない、またお手伝いやアルバイトを通してお金を稼ぐことを学ばせる。

ICTについて。社会で生きていくのに必須で早くから取り掛かからせたい。大人になればそれらのツールを使って生活をして行ける。最初からアルファベット入力で鳴らしておく。タブレットは読む障害にも書く障害にも使える。だからといって学習障害の子すべてがプログラミングが得意とは限らない。

ゲームはよく問題視されるがどういうゲームをどうするかによって将来プレーヤーのままなのかプログラマーになるのか、子どもと話し合ってどうするか決めるべき。マインクラフトやスクラッチが好きな子どもはプログラミング系があっている。スプラトゥーン、ポケットモンスターはエンジョイ系、リングフィットは運動系、スマッシュブラザーズや太鼓の達人はeスポーツ系、と行うゲームによっていろいろと得意分野が見えてくる。

合理的配慮の条約定義は「障がい者が他のものと平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、または行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失したまたは過度の負担を課さないものをいう」。

合理的配慮の例

  • 授業内容や連絡事項の板書が苦手な場合→スマホタブレットによる黒板の撮影。
  • 先生の話を聞きながら書くという同時作業が苦手、運動会の音楽など→スマホ、タブレット、レコーダーによる録音。
  • 聴覚過敏にイヤーマフ、ヘッドフォン、射撃用のイヤープロテクター。視覚過敏にはブルー系のサングラス。
  • 適度に学校を休ませ、給食を強制しない。

ほめることが大切。ほめてできたことを一緒に喜ぶこと。同じことが次に起きないように何をすればいいか、失敗に起こるのではなくて練習してできたことをほめる。

練習例:とんとんと親が子の背中をたたく「どうして?」と子が優しく言う練習。(急に怒りを爆発させてしまう傾向があるから)とんとんと子に背中をたたかせる「なに?」と親が優しく聞く。この二つを交代でやってみる。

練習例その2:口から発する練習を何度もすることで実際の場面で言ってもらえる。親が子の腕をぎゅっと握って子が「やめて」という。親は「ごめんなさい」と返す。交代でやってみる。ごめんなさい、とやめて、はなかなか言えない言葉なので練習が必要。

練習その3:距離感を保つ。対人関係には心理的だけでなく物理的距離も重要であることを伝える。1m前後の距離が話しやすい。整列のときの「前にならえ」をして距離を一緒に見てみる。向かい合ってお互いの気持ちの良い距離を確認。電車の中で女性に興味を持って近づきすぎてしまうと痴漢に間違われることがあるのでトラブルに巻き込まれないためにも距離の練習は日ごろからしておくこと。

練習その4:クールダウン法。腹が立ったらその怒りのエネルギーはモノにあたるのではなくて、自分の両手を握りしめて10秒数える。クールダウン法は外来でも練習として取り入れている。両手を握る代わりに自分なりの方法を編み出すことも多い。例えばペンダントを握る、耳たぶを握る、ネクタイを握る、など。深呼吸も有効である。

 

 

練習その5:心の中で言う(する)練習。「もういやだ」「早く帰りたい」「やめろ」「はやくしろ」などの言葉は口に出して言ったらトラブルの原因となる。心の中で言ってみる練習。実際に心の中で言ってみて、とやらせてみないとできるようにはならない。「鼻ほじほじ」「耳ほじほじ」しているところを見ると嫌われる。心の中で「イメージしてやったつもり」になる練習をする。やめなさい、、の注意だけでなくその場で実際にやらせてみる。

3大NGワードは「もっと」「ちゃんと」「しっかり」。それらは発達を抱える子どもたちには具体的に示さないとわからないことが多い。「もっと大きな声で」→「3の声で」、「もう少し勉強しなさい」→「あと30分書き残しの内容にノートを書いてね」、「ちゃんとやりなさい」「教科書の5ページから13ページ前を読んでおいて」など。

自立や就労を目指すために意識しておきたいこと。

  1. 生活習慣のマスター、身の回りの基本ができるようになる。
  2. 対人関係技能の獲得(異性・同性)
  3. 金銭管理、健康管理、
  4. 基本的な収入を得るための手立て、
  5. 趣味や地域活動への参加。
  6. できないことはトレーニングも。
  7. 社会的な手続きの知識と実行。
  8. 合理的配慮の知識と要求。
  9. 所属先、依存先を増やすこと

将来を考える。子どもが25歳の時に何をしているか。大人の場合には3年後5年後を見据えて考える。具体的に、どうやって食べていくか、どんなところで生活をするか、そのためには何が必要か、今のことだけではなく将来の目標が大切。

まとめ。自立は目標かもしれないがゴールではない。自己選択の範囲を広げて行使する自由、収入や成熟、ヘルスリテラシーの獲得を目指すこと。子どもの発達診療が目指すべきことは「現在の問題だけではなく、青年期を見据えること」自分で自分の人生を決めていく力が大切。

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